100%を逆転させるまでの途方もない2年間
※この記事は、あくまで個人的な見解です。


例の事件、彼女が両親のもとに帰ることができて、本当によかったです。


なぜ逃げられなかったのか?
もっと早く逃げられたのではないか?
という世間の声があります。
確かに、手をつながれていたものの何度か一緒に外出したようなので、そこで道行く人に「助けて下さい!」と叫べばよかったじゃない?
とか、玄関やベランダの窓が内側から開けられなかったとしても、男が一人で外出することがあったのだから、その間に隣の部屋の壁をガンガン叩けば、気づいてもらえたのでは?
などと、つい思ってしまいます。


彼女だって、そんな誘惑には毎日かられていたはずです。
いま助けを呼んで、道行くこの人が手をさしのべてさえくれたら…
隣や下の部屋の人が気づいて警察に通報さえしてくれたら…
いま勇気をふりしぼることさえできたら…私は家に帰れるんだ…私はこの地獄から脱出できるんだ…
ですが、彼女は解っていたのです。


チャンスは一生のうち、ただの1回しかない


ということを。
道行く人に助けを求めた瞬間に、男が衣服の中に隠し持っていた刃物で切りつけられてしまったら?
道行く人が「え…何…??」と呆然としている間に抱えられて、またあの地獄に連れ戻されてしまったら?
隣や下の部屋の人に助けを呼んだら、実は男が外出するふりをして、玄関のすぐ外で聞き耳をたてていたら?
どんなひどい目に遭うか、想像もできません。
つまり、99%は大丈夫だろうというものではなく、100%以上成功するほどの状況で脱出し、両親または警察が安全に保護してくれなければ、自分は殺されてしまうかも知れない、それくらいの恐怖があったと思います。
ですから、「この子はここから脱出しようと機をうかがっているな」と男に勘づかれては、絶対にいけなかったのです。


専門家の意見で、「洗脳されていた」という意見がありました。
確かに、連れ去られたはじめのうちは、洗脳されつつあったのかも知れません。
そんな彼女に光を与えたのは、閲覧を制限されていたはずのネットで、偶然目にすることができた「両親が彼女に戻ってきてほしい一心で、情報提供を求めるビラ配りを街頭でおこなっている」ニュースでした。
男が吹聴した「両親が離婚する」「誰も助けになんか来ない」という嘘の囁きを、いっぺんに払拭したのでしょう。
「ひとかけらでもいいから、何か知っている方はいませんか!?」と脇目もふらず汗水を垂らした両親の行為そのものが、彼女の心を救ったのです。
おそらくそのあと彼女は、「絶対にここから脱出するんだ」と心に決めたはずです。
そうして、公衆電話から助けを求めるための小銭と、自身の身分を証明するための生徒手帳を部屋のどこかに忍ばせていたのです。


しかし、100%以上の確率で脱出できる確信は、なかなか得られません。
チャンスは一生の中でただの一度だけです。慎重にならざるを得ません。
玄関とベランダの戸が内側から開けることができない環境では、非常に難しかったと思います。
そんな膠着状態に、引越しという絶好の転機が訪れます。


引越した先で男が玄関の外から鍵をかけなくなったのは、彼女が脱出したい誘惑をひた隠しにして、男に服従したふりを徹底した結果でしょう。
両親に山ほど反抗して、ナイフのようにとがってもおかしくない思春期の2年間を、日々自身を律して、男をすっかり油断させるよう振舞い続ける努力に捧げたのです。
一体どれほどの精神力なのでしょう。
そうして、外から施錠しなくなったことに加え、男が外出するとき、行き先と帰る時間をバカ正直に彼女に告げるようになります。
しかし、そこにもひょっとしたら罠が潜んでいるかも知れません。
脱出しようと決めたその日に限って、男に虫の知らせのような予感がして、家の外で監視しているかも知れません。
うっかり忘れ物をして、家にとって返してくるかも知れません。
そんなことが絶対ないよう、男が何を持参すれば忘れ物がなく家に戻って来ないのかをひたすら観察していたでしょうし、「どこへ行くから何時くらいに帰る」との予告が100%真実なのかどうか、穴のあくほど五感を集中させて、データを蓄積していったのでしょう。
そして、脱出する日にも、その決心を悟られないよう、完全に精神を自制し切ったのでしょう。


「窮鼠猫を噛む」どころではない、大逆転劇です。
2年間、洗脳状態にあってただ逃げられなかったのではなく、「この子は外側から施錠しなくても、ここから逃げることなんて100%ない」と信じ込ませて、実は彼女が100%以上の確率で脱出できる確信が得られる環境を作る、そんな「100%を逆手にとる」までに2年間という時間を要した、といったほうが正確でしょう。
引っ越してから1ヶ月後に脱出するというのは、彼女がきわめて冷静に引っ越した後の男を観察し、確信を深めていく時間と考えれば、妥当な時間かと思えます。
見事以外の何ものでもありません。


過去記事(無事って一体何なんだ)でも書いた通り、僕は「無事に保護された」という言い回しは好きではありません。
一生をかけても外せないような重しを心に結びつけられてしまったかも知れません。
公開捜査に踏み切った以上、多くの人が彼女の名前を記憶しているでしょう。
自分のクラスメイトたちは中学を卒業し、それぞれの道へ進んで行きます。
心身が相当に弱っているでしょう。
そういう意味で、彼女は相当なハンデを負ったように見えます。


ですが、いつの日か…
この出来事を意味のあるものにすることが、自分の一生の使命なんだ
それが、期せずしてそういう数奇な事件に遭遇してしまった自分に与えられたものなんだ
そんな境地に、いつの日かだどり着いてほしいな、そう願っています。
まったく関係のない僕が偉そうに言うことではないですが、そう願っています。
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[2016/04/04 00:00] 子育て | トラックバック(0) | コメント(0) | @
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